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今日は、鳩間節の2番に行きます。
八重山民謡をやっている方にはお馴染みの歌詞ですが、この2番は、細かく見ていくと、けっこう課題の多い歌詞であったと思います。
蒲葵(くば)とは・・・ビロウ(Livistona chinensis、蒲葵、枇榔、檳榔)はヤシ科の常緑高木。漢名は蒲葵、別名ホキ(蒲葵の音)、クバ(沖縄)など。古名はアヂマサ。
鳩間節1番は、鳩間中岡に駆け上ったのです。30mくらいの岡だから走って登るのも造作ないでしょう。2番はこの鳩間中岡の頂上の蒲葵(くば)の美しさを歌ったものです。
課題の一つ目。「美しゃ」(かいしゃ)とは、何か、です。歌をやっている人ならば、「そんなの美しい、という意味に決まっているだろう」と一蹴するかもしれません。
八重山古典民謡の現在、中心的立場にあられる先生から、昨年、平成28年時のコンクールの際、「君は言葉がわからないだろう。だから歌がいけていないのだ」と言う厳しいご指摘を受けました。
今だから申し上げますが、私はいささか不満でした。歌の意味はわかっている訳ですから。本を読むとすぐにわかる。日本語と八重山島言葉は親戚関係の言語。似た言葉も多い。また、漢字・仮名混じり文で表記可能なので、漢字で書かれているとけっこう分かるものです。故に不満だった訳です。
しかし、私が島言葉が分からないのは現実です。このようなことが分からないのです。
「美しゃーん」「美しゃ」が「美しい」という意味があるのは分かっています。
しかし、それでは「美しかった」(過去)。「美しくない」(否定)。「美しければ」(仮定)「美しかれ」(命令)が分かるでしょうか。
それが私の課題と認識しました。
まず、課題の一つ目は、「かいしゃ」とは何か、ということです。
「かいしゃ」は、原形は「かいしゃーん」で、上記のように変化します。
私は形容詞や動詞の活用の変化を分かりやすくするために、これらを4つのパートに分類しました。
もっとも大事なのは「語幹」です。これは、変わりません(5類の動詞のみ変わるところがある)
変化部は、子音は同じですが、その中で母音が変わる部分を「変化部」としました。
つまり「あ行」「か行」「さ行_・・・「や行_「わ行」の中で変化する訳です。
学校の国語、古文で習った「あ行変格活用」とか「ラ行変格活用」と言っていたものです。
ちなみに「かいしゃーん」はラ行変格活用です。
あと、それに語尾、接続語尾が続く訳です。
接続語尾と言うのは、「事(くとぅ)「ぴとぅ(人)」とかがありますが、」このような単に単語を変えて繋がっていくもの。
語尾は、もっと密接に、語幹、変化部と関係するものと考えて分類していますが、ちょっとはっきりしないところがあります。しかし、ここをくどくやると文法学者になってしまいます。そこまでは考える必要はないと思ってやっています。話は続きます。次のスライドです。
スライドの通りです。石垣方言辞典(宮城信勇 著)によると・・・というか、ネイティブではない私は、このようなせ正書に頼って理論で追求していくしかありません故。
「かいしゃ」は、「かいしゃーん」の語幹なのです。
形容詞の語幹は、そのままで、
1)名詞として
2)副詞として
使われます。
この場合、
1)名詞として使えば、美しさが生い茂っている、となるし
2)副詞として使えば、美しく生い茂っている、となるわけです。
次の課題は、「むいだる」(萌いだる) です。ここに「萌え」を当てたのは、他には見ないですね。普通は「生いだる(むいだる)」としているのが多いです。
これは私の発案です。
なにが正しい、何が正しくない、と言うことはありませんが、「萌」を当てると、なかなか気分が出るでしょう。
2番目の課題はこの「萌いだる」とは何か、ということです。
正書によると「生えている」意訳して「生い茂っている」という感じです。そう思います。しかし、ここではこの文章をもっと細かく見て行きましょう。
この「萌いだる」は「萌い」と「たる」に分かれます。
「萌い」の原形は「むいるん」です。
その変化を示しました。
5類の動詞で、例外的に語幹が変化します。
「や行変格活用」ですが、変化部で「ー」という母音を伸ばす印が入っています。
「やいゆえよ」は「い」と「え」を含む特殊な活用です。しかし、本来は「ゐ」(い)。「ゑ」(え)であったわけです。
まあ、変化部で「ー」の所もあるということでここではお願いいたします。
さて、ここで「萌い(むい)」は連用形 と解釈します。
「だる」は何か、というのが難しかったですね。
石垣方言辞典でけっこう調べました。
「たるん」という後で出ていました。
石垣方言辞典の文法のところにも「接尾語」として出ていました。
動詞の連用形2に接続して、その動詞を強める働きをする、とありました。
日本語の古語でも「たり」というのがあり、これと似ているような気がします。
参考までに、古語の「たり」の解説
たり
助動詞タリ活用型
《接続》体言に付く。〔断定〕…である。…だ。
出典平家物語 一・鱸
「清盛(きよもり)、嫡男たるによって、その跡をつぐ」
[訳] 清盛は、正式の長男であることによって、その(死んだ父の)家督を継ぐ。
注意完了の助動詞「たり」や「漫漫たり」などのタリ活用形容動詞の語尾と混同しないようにすること。
参考格助詞「と」+ラ変動詞「あり」からなる「とあり」の変化した語。
語の歴史中古には漢文訓読の文章に用いられ、和文にはほとんど用いられなかったが、中世以降和漢混交文に用いられて一般化した。
たるん の活用です。
「たる」は連体形。名詞に接続します。故にこの場合、「岡ぬ蒲葵(むりぬくば)」の「岡」に接続しています。
つまり「むいだる」は「むい」という植物が生えている様を表す動詞に「たる」がついてこの動作が強められています。故に「生い茂る」という訳になると思います。
歌詞では「だる」と濁っていますが、語調の関係でしょう。すなわち「むいたる」よりも「むいだる」の方が言いやすい気がします。
この次の「連りたる」は「たる」ですね。濁っていません。
次の課題です。
この「連りたる」です。
これは、「むいだる」と同形です。
ゆぬむぬ です(同じもの です。「ゆぬ」とは、「同じ」という意味)
「連りん」の変化です。
中舌母音の表記法には2通りあり、つまり、この場合「ちぅりん」と「つぃりん」ですが、正書では「ちぅ」が多く採用されています。
大濱安判先生の書かれた工工四では「つぃ」が採用されています。
故に私も「つぃ」派なのですが、正書には多く「ちぅ」が出ていますので、ここでは、「ちぅ」を多く使っています。ただし、「つぃ」も各所に出てきます。努めて統一を計ってはおりません。
さて、このような表を見せられると、「ゲーッ」となる方も多いかと思いますが、落ち着いて考えられたら良い。この表のお陰で、過去形とか否定形、丁寧な言葉、などが一目で分かるではありませんか。そして、単語は違っても同様なリズムや語感がある。それを暗記せよ、とも言えませんが、見ていると、何となく分かるようになるような気がしませんか。
何もわからない、のと、何となく分かる(ような気がする)、というのは、かなり大きな違いと考えます。
さて、「つりたる」ですが、これも「むいだる」と同様、強調の接尾語に繋がっていきますので、「ちぅりん(つぃりん)」の連用形2「ちぅり(つぃり)」が使用されています。
「連りたる」の解析 まとめます。
スライドの通りです。
「つぃりん」は3A類の変化の動詞。これは辞典を見なくてはわかりません。
慣れてくると推測はつくようになります。
その連用形2が、「つぃり」
それが強意の接尾語の「たるん」の連体形「たる」に繋がっている。
連体形は名詞に繋がる。故に、次の「つぃづぃ」(頂上)に繋がってい行くのです。
これは①と同様です。
形容詞の変化と、語幹がそのまま使われた場合、名詞か副詞の意味を持ってきます。
さて、鳩間節2番の歌詞 今まで以上にはっきりとしてきましたでしょうか。
それでは、また。島仲浜より、さようなら。
もう一つの拙ブログ
医院の公式ブログ 獺祭録
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